ピアノの先生が変わって、「手の形を直しなさい」、「腕の使い方を変えなさい」と言われる人は珍しくないようです。 先のコラムにも書いた通り、私は、過去に何度も奏法を矯正されるという経験をしてきましたが、同業の友人にその事を話すと、頷かれる事の少なくありません。 では、「正しい奏法(弾き方)」とは何でしょう?

奏法には「良い奏法」と「悪い奏法」の2つしかありません。 「古い奏法」が悪くて、「新しい奏法」が良い、などという事でなく、理に適っているか否かと
いう事です。

 「ロシア式奏法」、「フランス式奏法」、「ハンガリー式奏法」・・・などなど、様々なスクール(流派)が有りますが、交通手段の発達で世界が狭くなり、その垣根は殆どなくなっています。 けれど、「●●式奏法」というものをマスターする事が大切なのでは全くなく、重要なのは、頭にイメージした音を具現化する事が出来るかどうかという事なのです。 例えば、「ロシア奏法」と言っても、その中には色々な流儀が有って、一括りにする事は不可能ですが、そもそもロシア人と日本人では筋肉の質も、身体も骨格も、全てが違うのです。 彼らの奏法を受け入れるだけでは良い奏法をマスターした事にはなりません。

 中村紘子氏の著書、「チャイコフスキーコンクール」の中に、「ハイフィンガー奏法」という項が有ります。 何度か、中村紘子先生のレッスンを受ける機会が有りましたが、レッスンの前には「ハイフィンガー奏法」に関する記述を読んでいて、色々と参考にしたつもりでした。 けれど、一通りピアノを弾いた後で、先生はこう仰ったのです。 「あなた、古い弾き方ね」

 確かに、「チャイコフスキーコンクール」は名著だと思いますし、ピアノの弾き方に関してもとても参考になりますが、演奏は机上の理論ではありません。 指の上げ方、伸ばし方、腕の使い方・・・本で読まないよりは読んだ方が良いに決まっていますが、文字で全てを表せるほど、簡単な世界ではないのです。 「百聞は一見に如かず」の言葉の通り、実際に手を取って教えて頂く事でしか得られない事が多いのだ、という事を痛感しました。

 子供のコンクールなどを見てみても、時々ギョッとするような弾き方で弾いて居るコンテスタントを目にします。 「その延長線上に素晴らしい演奏は存在しない」弾き方で、一生懸命に取り組む姿に接する度に、胸の奥がチクリと痛むのです。
私のピアノ体験 (2) ≪ ≫ 楽譜に関して
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